Report of Sound Therapy at Hospice in United States

米国ホスピス視察レポート

目的: ホスピスにおける代替医療、特に音楽療法がどのように用いられているかを視察すること。またそれをサウンドセラピー開発に生かすこと。

日時: 2012年6月15日

場所: San Diego Hospice (4311 Third Avenue, San Diego, CA USA)
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概要:
San Diego Hospiceは1977年にDr.Doris A.Howellと、数人の支援者によりスタートした。中でもマクドナルドの創立者Ray A. Krocの妻、Joan B. Krocの多大なる寄付により実質的に運営が可能となり、今では24床のベッド、1200人の在宅ケアを擁するアメリカ最大のホスピスに成長した。

特筆すべきことは、ホスピスに必要な運営資金の大部分が個人の支援者からの寄付により成り立っているということである。
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各部屋は個室になっており、各部屋からは見事な眺望が楽しめる。

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廊下には地元アーティストの絵が飾られ、全てが商品であり、その売上の一部が寄付金となる。

行程:
9:00-10:00 館内全体視察
10:00-11:00 round(医師、薬剤師、看護婦、ソーシャルワーカー、代替医療の責任者、チャプレンからなるチームミーティング)に参加
11:00-12:00 harp therapy視察
13:00-14:00 acupuncturist(鍼灸師)のためのharp therapy講座
14:00-16:00 harp therapy視察

詳細:

Roundでは、一人一人の患者の状態について、詳細な情報共有が行われた。完全機密の個人情報には、患者の年齢、職業、家族構成、宗教、治療の経過、服用している薬剤などの情報が詳細に記されていた。
ホスピスの方針として、「痛みを取ること」が最優先である。そのためにはモルヒネ等の薬剤の過剰投与も厭わない。ただし、そこには副作用が必ずと言っていいほど存在するので、代替医療に関する必要性も十分に検討される。

ミーティングの内容の中心は以下の優先順位である。

1.家族のケア、コミュニケーションの進捗・方法
2.薬剤の投与状況
3.入退院の状況判断

話題のほとんどが1)の家族のケアであることは特筆すべきことである。
患者が65歳以上で低収入であれば政府の補助を受けることが出来るが、それ以外で、かつ保険の適用がない場合、在宅・施設入居・資金確保のどれかの選択をしなけらばならない。特に若くして症状が末期的な場合(アルコール中毒等に原因がある場合)、最悪の場合ホスピスが面倒をみなければならないこともある。この交渉をソーシャルワーカーがしなければならないので大変である。

全体で24床しかないホスピスで1200人もの在宅含めた患者をケアするので、入院できる者はかなり末期的な症状か、不安定な状況の者に限られ、ほぼ毎週のように患者は入れ替わる(40%はホスピスでそのまま亡くなる)。
Harp therapyは、特に末期的症状の患者(死を目前にして、会話もできず、薬も限界に達している患者)を優先的に行われる。今回では、全部で7人の患者に対するtherapyを見ることが出来た。


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Heartmathという器具を用いれば、体の状態が興奮状態から自然状態に移る様を見ることが出来る。興奮状態にある患者に対してHarp Therapyを行いheartmathでの測定を行った所、平均的に15分で自然状態に移行することが分かっている。このため、Harp therapyは各患者に対し平均15分かけて行われる。



ハープセラピー中のLinda氏。

Harp therapyの手法としては、

1.テンポ = 呼吸
2.モード(スケール)= 患者または部屋の環境
3.キー(調)= 声
4.楽曲 = 民族や宗教に合わせて、いくつかの有名な曲を演奏

の4つの要素がある。
大前提として、まずは患者の状況を把握し、それに寄り添うこと。その次に、時間をかけてそれを解決の方向に持って行くこと。これがおおまかな15分の中のセラピーの流れである。15分間の間、演奏は途切れることがなく、時折聞き覚えのあるメロディの片鱗が流れる以外は、ほとんど患者の状態を見ながらのインプロビゼーション(即興)である。

2)のスケールに関して少し詳細に説明すると、
Ionian = acceptance(通常状態)
Dorian = grounding(鎮静)興奮状態の場合に使用
Aorian = depression(悲しみ)Ionianへの解決へ向けて使用
Locrian = resolution (解決へ向かう)死の直前、魂の旅立ちに向けて使用

等、それぞれのモードの持つ性格を実際の状況に合わせて臨機応変に選択されている。

一番のチャレンジは、との質問に、Harp TherapistのLindaは「『ハープは要らない』と言われてしまうこと」と語っていた。

事実、病室に楽器を抱えて入っていくのは、医師が白衣を着て入っていくのと雲泥の差である。大体の場合そこには家族がいて、「何者だ?」という目線で注目されるところから始まる。運の良い場合、宗教や民族に合わせた曲を少し演奏すると、家族にも共感が得られ「その曲は彼も良く演奏したのよ」などど、今はコミュニケーションのとれない患者との橋渡しをすることができる。しかしそれはほんの一部の要素であって、harp therapyの本質ではない。

今回拝見した7名の内訳は
意識なし=2名
うっすら意識があるが混濁状態=2名
意識有り=2名
残る1人は状態が良くなり帰宅寸前であった。彼女は純粋にBGMとして音楽を楽しむことが出来た。

意識のある2名は、呼吸は浅く、睡眠がなかなかとれない様子であった。ハープを聴くことで多少落ち着いた所はあると思うが、それほど明確に変化があったようには見受けられなかった。

上述したように、一番の効果を感じたのは、意識がないか、混濁状態の患者であった。特に明らかに死が近いと思われる2人にとって、Locrian modeでつま弾くように演奏されるharpは、まるで「天使が迎えに来る」かのような感覚を受けた。「ゼー、ゼー」と声にならないような声を発していた意識のない患者は、harpが始まって数分で、静かな呼吸へと落ち着いた。明らかに平安が宿っている感じを受けた。魂が、自然にこの世の肉体を離れ、苦しみのないあの世に旅立つ準備をしているのを感じた。Harp therapyは肉体的なものよりも霊的に遥かに大きな働きをしていることをリアルに感じ取った。演奏者Lindaの、演奏に込められた祈りによる部分もかなり大きい。
私は全く客観的な立場で見ているのでこれを感じ取ることが出来たと思うが、しかしこれは、同席する健康な肉体を持ち、患者に特別の思い入れを持つ家族には、おそらく分からないのではないだろうか。事実その感覚のずれが、「harp therapyは何者だ」という目線を生んでしまうのかもしれないと思った。

混濁状態のうちの一人は、特定の宗教を持っていないように見受けられたが、死に対する恐怖をひどく感じていた。その不安からか、頻繁にナースを呼ぶのでナースも困った様子であり、是非harp therapyをお願いしたいということであった。
時間があればもう少し良い結果を期待できたのかもしれないが、彼女にとってはハープの時間よりも床ずれの痛みを直してもらうことの方が優先順位が大きいようであった。しかしこれは薬剤師によると、モルヒネの過剰投与から来る過敏性の痛みである可能性が高いとのことである。

ホスピスにおいては精神的ケアが薬剤によるケアとほぼ同等に必要とされている。また精神的ケアを行うことで薬剤によるケアが不要になることもしばしばあるという。

長年チャプレンの育成に携わって来たRichard F. Grovesによると、精神的ケアには以下の4つの要素が含まれる。

1.Forgiveness pain 誰かを赦せない、もしくは赦してもらえない、と思い続けていることから来る苦痛
2.Meaning pain 自分が生きて来た意味が分からない、もしくはなぜこんなに苦しい思いをしなければいけないのか分からない、という思いから来る苦痛
3.Relatedness pain 自分はひとりぼっちで死んで行かなければならない、という思いから来る苦痛
4.Hope pain 痛みの中、弱る一方の自分に希望が持てない苦痛

この4つの要素に対し、チャプレンは心理学的・宗教的見地からの対処を行っていく。特に家族のよりどころも宗教も持たずに死を迎えるものの苦しみは相当のものであろう。

San Diegoホスピスでharp therapistに支払われる報酬は1時間あたり40ドル、3時間拘束とのことであった。週一回のシフトである。
在宅や遠方のharp therapyの場合、60-75ドル(交通費込み)が支払われるとのことである。ただしその場合は1時間分のみとのこと。
この費用も、代替療法を支援する財団(これも寄付で回っている)がホスピスに支払っている支援費の中から捻出されている。
Harp therapistのみで生計を立てることは、最も状況が恵まれているであろうアメリカにおいてでもかなり難しいことが容易に想像される。

現状harp therapyが持つ課題は、以下の点ではないかと考える。

1.効果が演奏者の霊的感受性に大幅に依存する
2.患者の家族からの拒絶反応(患者自身が望むかどうかは別として)
3.経済的問題(演奏者の費用捻出、財団運営)
4.演奏者の時間的限界(すべての患者の所に伺う時間は到底ない)

この課題に対し、私達が開発を進めている横波スピーカーとハイレゾリューションのサウンドシステムの融合は、harp therapyのインタラクティブ性はないものの、ベッドサイドで、手軽に誰もが抵抗なく、大きな経済的負担もなく、優れた生演奏をいつでも手軽に楽しめるという点では、現在の問題点を大幅にクリアするのではないかと考える。

また、heartmathシステムやsleep sensorとの連動により、身体情報を手がかりにしてインタラクティブに演奏内容を切り替えるシステムも将来的に可能かと考える。